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6.
商用利用の展望
 インターネットは、これまでコミュニケーションや情報の受発信をメインとして普及してきましたが、現在でもある程度の規模に成長しているため、情報メディアとしてや情報ネットワーク・インフラとしての可能性に多くの企業が注目しています。現在試行されているものもいくつかありますが、ここでは、電子的商取引について取り上げます。
 電子的商取引や電子的商業活動全般は、「エレクトロニック・コマース(Electronic Commerce)」 と呼ばれます。これは、何もインターネットに限られたものではありません。これまで専用回線やパソコン通信を用いて試みられ、既に実用化もされてきました。しかし、インターネットの一般化により、エレクトロニック・コマースを飛躍的に発展させる可能性が出てきました。
 インターネットを用いたエレクトロニック・コマースは、一般に四つに大別できるといわれます。
 一つ目は、一般消費者向けの販売ビジネスです。これは、不特定多数の一般消費者を対象した商品販売を目的とし、すなわち、オンライン・ショッピングに代表されるビジネスです。二つ目は、これの企業向けの販売ビジネスです。一般消費者向けのものとは代金の回収や決済方法が少し異なるだけです。
 前の二つがどちらも、不特定多数を対象した一時的な商取引であるのに対して、企業間の比較的継続的な取引においてもインターネットの可能性が有ります。その三つ目は、EDI(Electronics Data Interch-ange)に代表されるもので、メーカーと卸業、販売業の間の受発注や輸送、決済などのデータのやりとりを目的とします。四つ目は、CALS(Continuous Acquisition and Lifecycle Support)に代表されるもので、製品のライフサイクルに関わる全情報(設計図面や部品データをはじめ、製品の開発・製造から保守に至る全情報)を統合データベース化して、複数の企業間での共有を目的とします。
 エレクトロニック・コマースは、いずれもその性格上、セキュリティ管理が重要です。特にEDIやCALSをインターネット上で行なうにおいても、企業や企業グループの情報を扱うという点からサーバー側のセキュリティと通信中の暗号化の技術が重要になってきます。また、インターネット上でのオンライン・ショッピングも、新たな市場の創造が期待されています。現在の消費者からすれば、膨大な情報の中から顧客主体の情報検索を行なうことができて、かつビジュアルで詳細な情報が得られるという点だけでも大きなメリットがありますが、実際に購入する際のクレジットシステムが完全なものにならなければ、商品宣伝広告の域を脱しません。
  そのためには、顧客の購入情報のセキュリティや、銀行等の金融業を取り込んでネットワーク上で決済できるシステムの一般化、ネットワーク上で扱える貨幣=ディジタルキャッシュの普及などが重要な課題になります。

7.
マルチメディアとしての
インターネット
 インターネットのネットワークとしての成功や、グラフィカルなページを主とするWWWの世界のことが、よくマルチメディアの典型的な成功例として紹介されます。  しかし、マルチメディアとは、本来、ユーザーが欲しい情報を即座に取り出せるようなオン・デマンドの環境の構築が必要です。ブラウザは、文章を扱うのには、すぐ応えられますが、静止画や音声、動画像などの特に大容量のデータをダウンロードする際には大変な時間がかかってしまいます。
 また、マルチメディアには、インターラクティブであること、オン・デマンドなダウンロードが可能であること、リアルタイムな情報や映像が提供されることなどが不可欠です。そういう意味では、現在の通信カラオケも対象を限定した形では成功していますし、また、ケーブルTVも、将来、VOD(Vi-deo On Demand)は当然ですが、インターラクティブな情報通信やショッピングに発展するであろうと注目されています。
 そのような中で、インターネット・WWWを考えると、単純な情報の受発信やそれ程大きくない情報のオペレーションの域では成功しているといえます。これまでいわれてきたマルチメディアの世界が、電子の世界の利便性だけが強調されて、個人は提供されるサービスを受けるだけの存在で、強いては個人をその自宅に閉じ込めてしまう帰来がありました。これに対して、インターネット・WWWは、企業だけでなく、個人レベルでの情報の受発信という新たなコミュニケーションの世界、さらには各個人がその創造に参加して作り上げていくという新たな世界を開いてきたという点で異質なものといえるでしょう。
 最後に、現在のインターネット・WWWは、マルチメディアの世界を一般の人々の身近な存在として認識させる一つの材料を提供してきました。しかし、その内容はマルチメディアの切り開くべき姿の一例であり、今後のマルチメディア社会の誰もに入り易い入口を提供したに過ぎません。今後は、インターネット自体も技術的に成長しますし、または他の例えばケーブルTVのようなものの基盤も拡充していって、それらを総合した形の新たなマルチメディアサービスの提供が社会を更に大きく変えていくものと期待します。
    (MMC-SE:T.F 01.02.1996)
 

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